プライヤーという名前を聞くと、読者のみなさんの大半は、おそらくバイクやクルマの車載工具に入っている「コンビネーションプライヤー」というものを思い浮かべられることでしょう。

しかし実際には、ハンドツールの中でも最もそのバリエーションが豊富なものがプライヤーなんです。専門メーカーになると使い勝手を考慮して10種類以上もラインナップされています。そもそもプライヤーとは、直訳すると“物をつかんでひっぱるための工具”。つまり2本の柄を握ることによって、つかんだり、切ったり、広げたりする工具というわけなんですが、一般的に次のような種類に分類されます。いずれをとっても専門メーカーで製造されたものは、車載工具に入っているものとは、仕上げ・材質ともに大きく異なる世界のものであることは言うまでもありません。

 ●コンビネーションプライヤー
 ●ロングノーズプライヤー(ラジオペンチ)
 ●ウォーターポンププライヤー
 ●ロッキングプライヤー

それでは、順を追って説明します。

【コンビネーションプライヤー】
そもそもコンビネーションプライヤーに「コンビネーション」という名前が付いているのは、“先端で物をつかむ”“あごの中央部で物に食い付く”“ジョイント付近で物を切る”といった3通りの使い方ができるからなんです。また支点部分にあるひょうたん型の穴と小判型断面のボルトによって、口元の大きさを小口と大口の2段階に開き具合を調整することができるというのが最大の特長です。小口は対象物をつまむのに適し、大口はやや大きめのものをつまむのには都合がよい。大きさの方はいろいろとありますが、一般的に車載工具に入っているものは、小さすぎて握った指が少しあまってしまい使い難いと言えます。やはり200mm以上あるものを選択した方がよいでしょう。

オーソドックスなコンビネーションプライヤー。大きさはいろいろありますが、使い勝手を考えると200ミリ以上あるものを選んだほうが懸命でしょう。

【ロングノーズプライヤー】
ロングノーズプライヤーは、別名ラジオペンチとも呼ばれています。これは、狭い場所での作業性を考慮し、口先を細長くしたものです。細かなパーツを拾い上げたり、細かい配線を切ったりする時に大変便利です。刃先にもいろいろなバリエーションがあり先端部分の刃先を曲げているものや、ゴムホースなどに傷をつけないように刃先に隙間をあけているものなどがあります。しかし通常のプライヤーと比べて大きなトルクをかけにくいという欠点もあります。
ロングノーズプライヤー、別名ラジオペンチ。


使い勝手に優れるウォーターポンププライヤー。大きさは250〜300ミリ前後のものが使いやすいでしょう。そのネーミングから水道、配管用工具と思われがちですが、車やバイクのメンテナンスにおいても活躍の場面があり、車載工具のプライヤー以外にお持ちで無ければ、まずはウォーターポンププライヤーの購入をおすすめします。 
 

アメリカのCHANELLLOCK社(チャネルロック)のウォーターポンププライヤー。
ライトブルーのビニールコーティンググリップがとても鮮やかです。

 


ドイツのknipex社(クニペックス)の有名な『コブラ』、世界的にも知名度は抜群で使い勝手にも優れています。
 

ピポッド部分で3枚合わせ。通常の2枚合わせに比べてバランスがより力をかけやすい設計になっています。

【ウォーターポンププライヤー】
ウォーターポンププライヤーは、開き具合が数段階に調節できるため、太いものをつかむ場合にも口先が平行に開いてしっかりとナットをくわえることができるというものです。通常のコンビネーションプライヤーがせいぜい1cmぐらいしか開かないのとは比べようもありません。またアゴの部分に角度がついているのも有効です。例えば奥深いところにある釘を抜く時にもテコの原理を利用することができるし、作業時にもつかんだものを見やすいし、つかんだものを回すときにもトルクをかけやすいといったメリットがあります。実際の作業をする上では、物をつかんだ方向と同一方向にひっぱる必要があるとき以外には、コンビネーションプライヤーよりウォーターポンププライヤーの方が大変使い勝手に優れています。ウォーターポンププライヤーというネーミングから水道、配管工具用のプライヤーと思われがちでありますが、バイクやクルマの整備でも使う場面は結構あります。
特に固着したラジエターホースを傷めないでこじるときや取りはずす時などは、便利です。大きさとしては、250〜300mm前後のものが最も使い勝手がいいでしょう。また柄の部分は、実際に手に持って力をかける部分なので滑り止めのためのゴムやビニールコーティングのカバーが付いているもの、またはローレット加工を施しているものが好ましいでしょう。
以上の理由から、もし現在、車載工具のプライヤー以外にお持ちで無ければ、まずはウォーターポンププライヤーの購入をおすすめしたいと思います。


そこで具体的にお勧めできるウォーターポンププライヤーとして、世界的に有名な次の2社のものを紹介します。
まず1社は、アメリカのCHANELLOCK社(チャネルロック※)の溝付きウォーターポンププライヤーです。ライトブルーのビニールコーティングのグリップが鮮やかで商品的には次のような特長があります。

 ●歯部 
歯の底部にアールを付けています。鋭角な角では常に応力を受けるため、折れや欠け、破損の原因となりますが、アールを付けることによって応力を避け、より強くなっています。また歯部はすべて高周波焼き入れを行っています。
 ●アンダーカット溝(UNDERCUT GROOVE)
1953年にチャネルロックでデザインされ紹介されました。溝は鍛造溝ではなく切削加工をしているため滑りにくくなっています。
 ●パーマロック(PERMLOCK)ピン
従来のボルト・ナット式のジョイントではなくリベット式ピンを使用することで、きつすぎず、また締まり過ぎないのでスムーズな動きを実現しています。
 ●溝部の縁(REINFORCED FLANGE)
1953年に開発。従来、圧力を掛けたときに溝部にストレスが掛かり折れるという問題がありましたが、溝部の縁を広くとっていますのでストレスに強いデザインとなっています。全長のバリエーションは、165、240、300mm。

もう1社は、『コブラ』や『アリゲーター』といったユニークな商品名を持つドイツのknipex社(クニペックス※)です。
1882年創業でウォーターポンププライヤーのルーツとも言われ、世界的にも知名度は抜群です。具体的に『コブラ』という商品には次のような特長があります。
 ●アゴ部分
上下のアゴの歯が平行四辺形の形に噛み合うために、物をガッチリとつかむことができます。
 ●プッシュ式開口調整
アゴの幅の開口調整はピボット(プライヤーの支点部分)に付いているプッシュ式ボタンを押すだけなので、非常にスピーディーに行えます。
 ●ピボット部分で3枚合わせ
ピボットのところでアゴの延長が3枚になっていること。つまり上アゴからグリップにいく途中で2つに分かれその隙間から下アゴからのピボットが入っている形状。通常の2枚合わせに比べてバランスがよく力をかけやすくなっています。
全長のバリエーションは、180、250、400mm。

上記のいずれの商品もオーソドックスな250mm前後のものが通常の使い勝手に優れているのでお勧めです。ウォーターポンププライヤーは、コンビネーションプライヤーに比べてクルマやバイクのメンテナンスにおいては、使用頻度はうんと高い。つまりうまく使いこなせばこの上なく便利なツールとなるわけです。みなさんプライヤーと聞けばコンビネーションではなくてウォーターポンププライヤーを思い浮かべるぐらいに使いこなして下さい!


【ロッキングプライヤー】
ロッキングプライヤーは数あるハンドツールの中でも、万能ツールと呼ばれることがあります。万能ツールやマルチツールと呼ばれるものは、総じて「何にでも使える」と謳われます。しかし「機能が多すぎる」あ
まり、実際の使用時には、得てして使いづらいものになってしまいます。このためプロの整備士や熟練したメカニックの人たちは、そういうたぐいのものをあまり使いたがりません。しかしながら、ロッキングプライヤーというものはプライヤーの一種とはいうものの、他に類をみないほどの万能ツールと言える逸品と言えます。

そこでロッキングプライヤーの代名詞になっているバイスグリップ(VISE GRIP)についてもう少し詳しく解説します。バイスグリップというものは、今世紀の初頭1924年にデンマークからアメリカに移民してきたアイデアマンであった鍛冶屋の主が、特許局にひとつのユニークな工具に関する特許を申請、そして見事『テコの原理を利用して軽く握るだけでロックできる頑丈なプライヤー』の特許認可を受けました。彼の名は、“ウイリアム・ピーターセン”。彼の開発したバイスグリップというものがロッキングプライヤーの元祖というわけです。その外観は、一見すると普通のプライヤーと同じようですが、中身の方は全く異なり対象物をしっかりとくわえたままそのアゴの部分をパチンとロックできるという便利な機能が付いていることが何よりも特徴でした。その万力(バイス)に似た機能から『VISE GRIP』と命名されたわけです。

バイスグリップの商品の長所としては、まず第一に信頼性が非常に高いことです。本体のアゴ部分は、強靱な鍛造仕上げでしかも2段の滑り止め加工を施しているところが高性能の秘密であります。また1年間の保証付きと銘打っているところからもその信頼性が伺う事が出来ます。そして第ニに、通常のプライヤーの支点が1つだけであるのに対してバイスグリップの方は、4ケ所もの支点を有しテコの応用により人間の小さな力で大きな挟み込む力を発揮できるという構造的な特徴があります。第三に強固なロック機構付きのため、挟み込む力を保持できるようにしていたことも見のがせない長所のひとつと言えます。

使い方もいたって簡単です。まず本体のアジャストボルトを調節して、アゴの幅をまずは適当に合わせそれで一度締めてみます。もし対象物に対して緩すぎれば、いったんはずして再度アジャストボルトを締め込む、反対にきつくて締まらなければ、アジャストボルトを緩めてみる。あまりきつく締め付け過ぎると相手の対象物も傷めてしまいますし、本体のアゴにも負担がかかりますのでウエスなんかを1枚はさんでバイスグリップをロックするとよいでしょう。ところでこのバイスグリップが万能ツールと言われるのには、1 本で数種類の工具を兼ねるものであるといことが言えるのですが、『これにはどういった使い方があるのでしょうか?』
おもに次のような使い方ができます。

 ●通常のプライヤーのように対象物をしっかり挟み支持できること。
 ●レンチの代用としてボルトやナットを締めたり緩めたりできること。
 ●ドライバーでは回すことができない+字や-字の頭のなめた小ネジにかませて回すことができる。
 ●パイプレンチとして代用できる。
 ●小さな小片をグラインダーで加工する時、しっかりとくわえて作業することができる。
 ●溶接や穴明けの時、万力の代用としてパーツ類をしっかりと保持することができる。
 ●接着や接合には、万力の代用として手っ取り早く強力な締め付けをすることができる。
 ●バールの代用として釘抜きにも使用できる。
 ●のこ刃ややすり等の応急用のハンドルとして使用できる。

上記のような使い方以外にも、ケースバイケースでもっといろいろな使用方法がきっとあることでしょう。この多機能の実現には、テコを応用した構造が大きな役割を果たしていることはいうまでもありません。
また一口にバイスグリップといっても、バリエーションが実に豊富です。アゴの形状によりオーソドックスなものから溶接用、配管工事用、板金作業用などおよそ25タイプあります。

なかでもバイクやクルマのメンテナンス用としては、曲線アゴタイプの10WRとロングノーズタイプの9LNあたりをお勧めします。両者とも全長が210mm前後でちょうど使いやすいくらいの大きさで、口を開けることができる開口値は、前者が47ミリ、後者が76ミリです。また両者ともピアノ線も一発でカットできるワイヤーカッター付きということですから応急処置用工具としては、これ以上ない便利なアイテムです。車載工具に純正で入っているプライヤーとは比べようもありません。というのは、通常のプライヤーで対象物をつかんで回そうとした場合には、つかみながら回すということになり作業者のつかむ力と回す力が分散されてしまうわけです。これに対してバイスグリップの場合は、つかむ力はロック機構により確実に排除され、回す力だけに集中することができますので楽に作業することができるというわけなんです。このあたりがバイクやクルマのメンテナンス用としてお勧めする理由のひとつです。

一口にバイスグリップといっても、バリエーションが実に豊富です。アゴの形状によりオーソドックスなものから溶接用、配管工事用、板金作業用などおよそ25タイプあります。

◯先端部を細くし狭い場所での作業性をよくしたロングノーズタイプ
(4LN,6LN,9LN)
◯ロングノーズタイプにさらに35度の角度を付けたベントノーズタイプ
(4BN,6BN,9BN)
◯丸物をよりしっかりくわえやすくした曲線アゴタイプ
(4WR,5WR,7WR,10WR)
◯直線アゴタイプ(7R,10R)
◯Cクランプタイプ(6R,11R,18R,24R)
◯板金用タイプ(8R)
◯溶接用タイプ(9R)
◯チェーンタイプ(20R)


上写真は、曲線あごタイプのワイヤーカッター付モデル。車やバイクのメンテナンス用としては、曲線アゴタイプの10WRとロングノーズタイプの9LNあたりをお勧めします。


最後になりましたが、このウイリアム・ピーターセンの開発したバイスグリップというものは、アメリカのSnap-on(スナップオン)やPROTO(プロト)また日本のKTC(京都機械工具)の純正指定商品にもなっています。彼のアイデアが工具メーカーに与えた影響は非常に大きいわけです。また今日の世界中の一般家庭からプロの整備士や専門家まで広く愛される商品となり、みんなから重宝がられています。
現在このバイスグリップをお持ちでなく、プロの工具使いの目指しているみなさん、メンテナンス工具のマストアイテムとしてツールボックスの中に追加したとしても決して後悔することはないことでしょう!