「今、乗っている車のミラーを交換しようとしたところ+字ネジが錆びついているらしく、固くて全く回りません。
貫通型のドライバーをハンマーで叩いてショックを与えてはずすらしいんですが、
大概はこの手法ではずれるものなのでしょうか?
もしはずれなかったら他にどういった方法があるのでしょうか?」
このようなメッセージが当社宛てに届きました。

確かに外回りのネジや、長時間外に放置しっぱなしのクルマやバイクをレストアしようとした場合によくあるトラブルです。6角ボルトやナットなら極端に錆び付いている場合以外は、メガネレンチや長いめのフレックスハンドル(スピンナーハンドル)を使えば、なんとか回せる場合があります。しかしながら相手のネジが今回のメッセージのような+字(クロス)や-字(マイナス)のネジの場合は、通常の使い方ではほとんどお手上げ状態となってしまいます。通常のドライバーというものは、いくら力が入れやすいようなグリップ形状をしていて、目一杯押し付けながら回したとしても、最大締め付けトルクはせいぜい40〜50N・mぐらいのものです。つまり固く締まっているネジや錆び付いているネジは回すことができなかったり、最悪の場合、ネジ山をなめてしまう結果となってしまいます。

このような簡単に緩めることができないネジには、どのように対処すればいいのでしょうか?

1)浸透性潤滑剤をネジ部にスプレーし、10分程度時間が経過した後に緩め作業にとりかかってください。浸透性潤滑剤は、錆び付いたネジの間に浸透しネジ面の摩擦係数を低減させる効果があります。だから再度締め付ける場合は、よく拭き取らないと、トルク係数が小さくなるため締め過ぎてネジが伸びきれる場合がありますのでご注意ください。

2)メガネレンチや長いめのフレックスハンドル(スピンナーハンドル)やT型レンチを使用する。+字(クロス)や-字(マイナス)ネジの場合は、貫通ドライバー(軸がハンドルの中心を通って末端まで出ているドライバー)をハンマーで叩くことによって、ネジ山にショックを与えて緩める。

3)貫通ドライバーで緩まない時は、ショックドライバー(インパクトドライバー)というものを使って、貫通ドライバーよりも強力なショック
を与えて緩める。このショックドライバーというものは、ハンマーで ショックドライバーの後部を叩くことによるショック(垂直方向の力)
を左右の回転エネルギーに換えてネジを回すものです。このためショックドライバーというものは、錆び付いたネジを緩める作業が目的だけではなく、強力な締め付けトルクが必要な時にも、大変重宝するものです。

つまり緩んでは困るという箇所には、ショックドライバーで一撃して締め込んでおくとよいでしょう。ただし、使う際にはハンマーで思いっきり叩きますので、うち損なって手や指をケガすることが少なくありません。十分に注意して作業してください。このような事故を防ぐため、手や指を保護するツバが付いている親切設計の製品もありますのでここで紹介します。ANEX(アネックス:兼古製作所)のNo.1900* という製品には、大型のグリップガードが採用されています。そのため、叩く時にも事故を起こしにくく、非常に安心して使うことができます。他にも、VESSEL(ベッセル)のNo.2400というのもあります。

4)それでも緩まない場合は、バイスグリップ(ロッキングプライヤー)で挟んで回してみるという手もあります。

パーツの取り外しや、固く締まっているネジ、あるいは錆び付いているネジの脱着にしても、普通に力を加えて緩まない場合や、大きな締め付けトルクが必要な時には、ショックドライバーが大変有効で、大抵の場合はこれで対応できます。つまり叩いた後は、普通にレンチに力を加えるだけで緩んだりするわけです。ここで“運良く外れたネジ”をいつまでも使っていると、ついにはネジ山を潰してしまい、回せなくなり苦労することになってしまいます。
やはり錆び付いたネジを外した時には、これをいい機会に新しいネジに交換したり、6角穴付きボルト(キャップスクリュー)に取り替えてみましょう。+字や-字ネジに比べて、回しやすくトルク伝達もよいので、次回からのメンテナンスが、格段にやりやすくなります。このようにご自身で作業のやりやすいようあらかじめネジ類を取り替えておくことも、メンテナンスにおける大きなテクニックのひとつといえるでしょう。

しかし、中にはバイスグリップ(ロッキングプライヤー)で挟んで回してみても、またショックドライバーで叩いた後もなお普通の力では緩まない場合もあります。こんな場合はどうすればよいのでしょう?
どうしても外さなければならない時には、覚悟を決めてさらに強い力で叩かなければなりません。当然のことながら、叩いたショックでパーツの場合はパーツの破損、ネジの場合はネジ山が潰れたり、ボルトが折れたりもするでしょう。さらに、工具まで破損してしまうことも考えられます。しかし心配することはありません。

クルマやバイクのパーツというものは、メーカーの倉庫にストックしてあるでしょうし、ネジ類は、機械工具店やホームセンター、また工具は工具屋さん等へ行けば簡単に手に入れることができます。つまりどうしても緩めなければならない時には、思い切って通常以上のオーバートルクを加えて、外すなり緩めるなりすればよいのです。

もしそうした結果、パーツやネジが破損してしまったとしても後で対策はいくらでもあるということです。クルマやバイクをメンテナンスする場合にネジに関するトラブルは結構あります。その証拠にネジに関するトラブルを解決するための便利な特殊工具があるわけです。そこでネジのトラブルを脱出するための便利なツールをいくつか紹介します。

 


●ナットブレーカー

マフラー回りのボルトやナットは、熱や水分によってどうしても錆び付いてしまう傾向にあります。このどうしても緩めることができないナットを緩めるのではなく、カチ割って外してしまおうというものがナットブレーカーです。その使い方はいたって簡単です。ナットの中心にクサビ状の刃の中心をあわせて、本体の後部に付いている締め込みボルトをレンチを使って、どんどん締め上げていくだけです。大切な愛車に付いているナットを自らの手でカチ割ってしまうということは、過激なようで、またさみしい気がしますが、錆び付いたナットでもこのナットブレーカーを使えばいとも簡単に取り除くことができます。レンチ類で思いっきり力を入れる必要もありませんし、また途中でネジが折れたり、レンチが破損して危険なめにあうこともありません。
さらにボルトのネジ山を潰してしまうほどのダメージを与えることもありませんので、ナットだけを新しいものに取り替えるだけで済むといメリットもあります。

使い方は簡単です。ナットの中心に刃を合わせて本体末端部のネジを締めあげていくだけです。

●スクリューエクストラクター
ナットの場合は、上記で説明したようにナットブレーカーを利用して割ってしまうことは、簡単なことなんですが、ボルトの場合はナットブレーカーで頭の部分を割ったとしても、ネジ部分だけが残ってしまいます。
またボルトを締めたり、緩めたりする途中でボルトを折ってしまっても同じような状況になることもあります。この原因には、オーバー荷重や、また浅いネジ穴に長いボルトを締めこんだ時などによく発生します。締め込む時にボルトを折ったとしても、これは大した問題ではありません。ネジ穴の残った部分に、センターポンチやケガキ針をひっかけると意外に簡単に回ってしまったりします。ところが緩める途中でボルトが折れてしまった場合には、ちょっと簡単ではありません。先のような方法では回るわけがありません。レンチを利用したり、叩いて回らないものですからちょっとやそっとでは回すことは不可能です。こんなときに登場するのが、スクリューエキストラクターというものです。
(EXTRACTOR=日本語で引きぬくものという意味)

これは、折れたボルトの表面をサンダー等で平らにして、残ったボルトの中心にドリルで穴※を明けます。このボルトのセンターにぴったりと穴を明けるのは、かなりの熟練が必要ですが、これさえ済ませばあとは簡単です。エキストラクターというものを、ドリルで明けた穴にハンマーを利用して打ち込むだけです。そしてエキストラクター本体後ろ側にある四角部分にレンチをかませてネジが緩む方向に回してやると、
残ったネジ部にくいこみ、さらに力を加えて回すと、折れたボルト部が緩んでくるという便利なものです。


No.22430折れ込みボルト抜きと下穴ドリルセット
ボルトが穴の中に折れ込んだ時に折れ込みボルトを簡単に抜き取ることができます。


●タップ&ダイス
ネジ山を潰してしまう主なケースには、
・錆び付いたネジを無理して回そうとした時
・振動が大きい場所のネジが緩み、そのまま放っておいた結果
・締めたり緩めたりを何度も繰り返しているうちに自然と
・異なるピッチのネジを無理に入れようとした時
などがあります。

こんな時にもネジ山の修正に欠かすことの出来ないツールがタップでありダイスでもあります。ナット(メスネジ)の場合はタップを用いてメネジを加工しネジ山を整え、ボルト(オスネジ)の場合はダイスを用いてネジ山をさらえるというものです。

タップは錆びて目詰まりしたネジ穴をそっと再生したり(タップ通し)、完全に潰れたネジ山を新たに掘り直したり(タップ切り)、新品の素材に穴を明けネジ山を切って造作するといったことができます。それでは鉄板に穴を明けてネジ山を切るという作業例でタップの使い方を説明します。

1.おおよそネジ径からピッチを引いたサイズの下穴をあけます。
(例えば細目ネジM6のピッチ0.75のネジの場合は、
6から0.75を引いた数値の約5.25ミリというわけです。)

2.次にバイス(万力)に確実にセットし、斜めにならないようにタップをたてます。

3.タップが噛んできたらタップハンドルを装着して慎重にゆっくりとネジ山をきります。この時オイルを少し塗布しながら行うとスムーズに行なえます。

4.途中でひっかかる時には一気に作業をしないで、少し重いなぁと感じるといったん戻してから改めてゆっくりと回しながら締め込んでネジ山を整えていくことが大切です。もし無理して回すと簡単にタップが折れてしまいます。

5.ネジ山がきれた後は試しにボルトをねじ込んでスムーズに回ることを確認し、問題なければ無事作業の終了です。

もう一方のダイスの場合も基本的な使い方はタップと同じです。しかしボルトの先端部分だけのネジ山が潰れている時にはヤスリでちょこっとすってやるだけで直せることもあります。
タップもダイスも作業する上で特別なコツというものはありませんが、ネジ山をたてる時には斜めにならないように垂直に行うことと、無理してねじ込まないことです。肩の力を抜いて楽に作業を行って下さい。

また注意すべき点として、オイルパンやプラグ孔のように内部に絶対に切屑を落としたくないような部分では、タップに大量のグリスを塗布する必要があります。このグリスに切屑が付着して内部に切屑が入るのを 防ぐ働きをしてくれるわけです。

上記のようにタップやダイスを使ってネジ山を修正することはさほど難しい作業というものではありません。しかしこういった作業をするにはバイス(万力)が必要になってきます。このバイスを作業台に付けておくだけで作業する範囲がぐっと広がってきます。また今までのハンドツールに加えてボール盤やグラインダーそしてルーター等の電動工具も欲しくなってくるところです。それには当然少し恵まれた環境と十分なガレージ空間が必要になってきます。しかし都心部でなかなか専用のガレージを確保することは難しいでしょうし今すぐすべて揃える必要もありません。このようなガレージの設備や電動工具あるいは特殊・専用工具は必要に応じて徐々に充実させていけばよいことでしょう。徐々に買い揃えていく楽しみや今まで出来なかった作業もできるようになり、ガレージライフがいっそう深く広がりエンジョイできるでしょう。また最近はレンタルガレージやDIY店で電動工具のレンタルサービスを行ってころもあります。これらを利用して見てもおもしろいでしょう!