工具というものは、クルマやバイクいじりに限らず様々なメンテナンス作業に無くてはならない必需品。
しかし一口に工具といっても、その種類は両手でも間に合わない。
つまり作業する場面や場所によって必要なツールが異なり、これらに応じて巧みに工具を使い分ける事が必要があるということです。
そこで今回号では、数あるハンドツールの中でもガレージやツールボックスの中にひとつあるだけでも便利で重宝するハンドツールをいくつか介します。

【裏技ツールのアダプターソケット】

一般的にソケットレンチというものは、ラチェットハンドル等のハンドル類とエクステンションバーやユニバーサルジョイントといったアタッチメント類、そして最先端でボルトやナットに直接対決するソケット(コマ)を組み合わせて使う工具の総称です。ラチェットやソケットだけでは全くと言っていいほど用をなさないわけですが、これらを互いにうまくジョイントさせることによってメガネレンチやスパナにはないスピーディーな作業を行うことができるわけです。そしてこのジョイントさせる四角部分を差し込み角と呼び、その二面幅の大きさでサイズが表わされます。

差込角は基本的にはインチサイズで呼ばれることが多く、小さい方から4分の1、8分の3、2分の1、4分の3といったものがあります。またこうした呼び方とは別に会話の中でよく使われるのが、2分(ニブ)・3分(サンブ)・4分(ヨンブ)・6分(ロクブ)と呼ばれるものです。これはそれぞれのインチサイズの分母を8で通分した時の数値、つまり8分の2、8分の3、8分の4、8分の6の分子の数字からきているものです。またインチをミリに換算してそれぞれ6.35ミリ、9.5ミリ、12.7ミリ、19.0ミリと表現されることもあります。
(1インチ=25.4ミリ)

このように数種類の規格がある差込角ですが、異なるサイズ同士については原則的に互換性はありません。簡単に言えば、2分の1のラチェットハンドルに8分の3のソケットはジョイントできないということです。
しかしここで常に使う性格の定番ツールではありませんが、使い方によってはとても便利なものがあります。それが異なるサイズの差込角の互換性を作る役割を果たす裏技ツールのアダプターソケットなのです。

アダプターソケットは二つの異なるサイズと形状の差込角部で構成されています。一方は突き出ている四角部分で、もう一方がへこんでいる四角部分です。カタログの表記には前者を凸や(+)、後者を凹や(−)
と表されています。一般的な差込角の4分の1、8分の3、2分の1の3種類の中で言えば、次の4タイプのアダプターソケットがあります。

4分の1から8分の3に互換性を持たせる
●4分の1凹(−)×8分の3凸(+)
●8分の3凹(−)×4分の1凸(+)

8分の3から2分の1に互換性を持たせる
●8分の3凹(−)×2分の1凸(+)
●2分の1凹(−)×8分の3凸(+)

※4分の1から2分の1あるいは2分の1から4分の1とワンサイズ飛び越えてジョイントするアダプターはありません。
※凸のサイズの方が凹の方より大きいものを逆アダプターと言います。

 

例えば今、2分の1のトルクレンチを使ってホイールを締め付けたい時に、差込角8分の3のソケットしか持っていないときはどうでしょうか?
通常では差込角の互換性がないため使うことができませんが、ここで2分の1(−)×8分の3(+)のアダプターソケットを用いると難なく使用することができます。

しかし8分の3のラチェットハンドルに2分の1のソケット26ミリを繋げて使用する場合はいかがでしょうか?
メンテナンス上級者や作業に良く慣れた方なら、『あっ!ちょっとやばいかな?』と感じる方もいるでしょう。

確かにアダプターソケットを使用すれば、ハンドルとソケットをジョイントすることができ、また運よくボルトやナットを締め付けたり緩めたりすることができるかもしれません。ここで運よくといったのは、うまくいかないこともあるからです。それは8分の3のラチェットハンドルでは全長が短く力を加えることが出来なかったり、また内部のギアが破損する恐れもあるからです。つまりソケットレンチには自ずと限界能力というものがあり、差込角別によって4分の1は3から14ミリ、8分の3は6から24ミリ、2分の1は8から32ミリ。
という具合におおよその守備範囲が決まっているわけです。だから何でもかんでもアダプターソケットでジョイントすることには注意が必要ということです。

また差込角2分の1の長いラチェットハンドルに8分の3の極端に小さいソケットをジョイントして使用する場合には、ネジの適正な締め付けトルク以上の大きな力を加えてしまい、最悪のケースではオーバー荷重によってボルトのネジをねじ切ってしまう恐れもあります。
逆に小さな差込角のラチェットハンドルに大きな差込角のソケットをジョイントする場合には、小さなラチェットにとって大変負担となり、内部のギア本体が壊れてしまうことも当然発生します。
つまり逆アダプターを使用するときには小さな方のツールに気を使ってやる必要があるわけです。いずれにしてもハンドツールの限界性能とネジの締め付けトルクの関係を十分理解した上で裏技ツールのアダプターソケット使うことが肝心なのです。

 


【モンキーレンチの利便性】

モンキーレンチは、本来『アジャスタブルレンチ(Adjustable Wrench)』と言いますが、この他にも“自在レンチ”や“自在スパナ”と呼ばれることもあります。基本的な形状はスパナとよく似ていますが、スパナの場合は口のサイズが8ミリや10ミリと言う具合に決まっている固定形状なのに対して、
モンキーレンチの場合はウォームとラックというパーツの噛み合わせによって口の開閉サイズを調整し、様々なボルトやナットの大きさに合わせて使用することができます。このサイズを自在にアジャストできる有利さと便利さから万能ツールとして、まだ日本にクルマ社会の到来する以前においてはハンドツールの主役として活躍していた時代もあったほどです。

しかし現在のクルマやバイクのメンテナンスには、 いろいろなサイズのネジに1本で対応することができるそのアバウト的な性格のモンキーレンチは、 『あっ!あっても無くてもいいようなツールね。』 と思われがちなところがあります。しかし実は無いとすごく困ってしまうものでもあります。
例えば、 『15ミリの六角ボルトを緩めるときはいかがでしょうか?』
15ミリというサイズはレンチの中でも珍しいサイズで一般的なセット品の中にはラインナップに加えられていることは少なく、持っていないことも多いはずです。こんなときにサイズをアジャストできるモンキーレンチの出番となります。またこの他にも具体的な使い道として、カー用品取り付けのステーやブラケットを折り曲げる時にも活躍の場面があります。プライヤーでは力が入れにくく、またバイスグリップでは強力に食い付き過ぎて傷がつきやすいといった欠点があるからです。

つまり実際のメンテナンス作業をスパナやメガネ、ソケットレンチなしにすべてモンキーレンチだけで行うことはちょっと無理な話であって、常に使う性格のツールではないけれども、最低1本は持っていないと不安を覚えるツールであると言うことができます。

モンキーレンチの種類としては、日本工業規格(JIS)では普通級のN級と強力級のH級の2タイプがあり、作り方の区別で全鍛造品(N級、H級)と部分鍛造品(P級)というクラスに分けられています。またスパナ部の柄に対しての口の曲がり角も15度と23度の2タイプがあります。さらに口の開閉部分をいっぱいに開いた時の寸法が13ミリから20、24、29、34、44、55、65ミリまでの8タイプ。それに伴い全長サイズも100ミリから150、200、250、300、375、450、650ミリまで全部で8タイプの寸法を設定しています。

但しモンキーレンチの場合は最大の口幅のネジまで回そうとすると、ネジの頭からレンチが外れてしまいやすく、小さなネジを口幅の大きなもので回そうとすると、口の部分がうまくネジの頭を掴みきれずに滑ってしまい、ネジの頭を壊してしまう恐れもあります。だからモンキーレンチを使う場合には、最大口幅寸法の約半分から七割ぐらいの範囲にとどめて使用するするのが無難であると言えます。
例)口幅寸法20ミリ(全長150ミリ)のモンキーレンチの場合は、12、13ミリぐらいのネジが目安。クルマやバイクのメンテナンス用には、全長150、200、250、300ミリの中から大小2本を組み合わせて購入することをお勧めします。価格の方も何百円といった格安品もありますが、国内外のメーカー品でも約三千円から五千円程度ですからアバウト的な性格のモンキーレンチこそ、やはりきちんとしたクオリティーの高いものを選びたいところです。

 


※15°型と23°型。
スパナ部の柄に対しての口の曲がり角の違いによる。

そこで数あるモンキーレンチの中から独自の世界を確立したすばらしい商品を以下に紹介します。
ひとつはスウェーデンが生んだモンキーレンチの代名詞とも言うことができるBAHCO社(バーコ※)のものです。
バーコ社は百年以上の歴史があり、世界初のモンキーレンチの原型を発売したことで有名です。ハイスピード鋼として定評のあるスウェーデン鋼を用い、グリップ部分が厚く力を入れやすい形状が特長です。重量的にも真ん中の部分の肉抜き処理を施しているため軽く、全体の持った感じのバランスも絶妙と言えるでしょう。またガタが少なく下あごをめいっぱい拡げてもウォームギアが外に飛び出さないメカニズムやノギス代わりに使える目盛り付きというのもおそらくバーコがはじめて採用したものでしょう。またウォームギアの調節が親指だけでできるという特長もあります。安物のモンキーレンチはウォームギアの調節に親指と人さし指の2本の指で両面から挟んで回す必要があり、使っているうちにだんだん自然と緩んできてしまうためちょこちょこ増し締めする必要があるというわけです。

もうひとつはこのバーコに勝るとも劣らない国産のメーカーがあります。それは新潟県三条市のトップ工業(TOP※)から発売されている所謂遊びのない(ガタのない)モンキーレンチです。世界初のバックラッシュレスウォーム機構(PAT.)の採用により、モンキーレンチ最大の欠点であった下あごのガタツキを解消したことが最大の特長です。これは簡単に言えば従来のウォームギアが1個であったのを2分割して下あごのラックをはさみ付けて遊びをなくしたというものです。このためガタがなくウォームギアの調節も親指だけで行うことが出来ます。また口の開きが平行に拡がるため、いったん口幅を合わせるとあとはほとんどウォームギアを調節する必要が無く作業することが出来ます。

モンキーレンチはスパナと同様に一般的には仮締め用という解釈もあるわけですが、ハンドル部分の長さと使用可能なネジの頭の関係からすれ
ばかなり大きな力を加えることができる本締め用の工具ということができます。しかし狭い場所ではあごの部分がどうしても邪魔してしまい使うことが出来なかったり、大きなサイズのレンチで小さなネジを回すことや、非常に大きなトルクが必要であるときにも決して適しているツールと言うことは出来ません。サイズをアジャストできる融通性があることをいいことに不用意に多用するとネジの頭を傷めることにもつながりますので、使い方には十分注意することが大切だということをお忘れなく。


【お手軽SSTのスナップリングプライヤー】

様々なメカやパーツがひしめき合っている最近のクルマやバイクは、決まりきった普通のハンドツールだけではなかなか思うような作業ができないことがよくあります。このようなときに出番となるのがSSTと呼ばれる特殊工具です。
SSTとは、Special Service Tool(スペシャルサービスツ−ル) の頭文字の略で、一般のツールではどうしても作業が出来なかったり、作業するのに長い時間を費やしてしまう場合など、作業効率を向上させる目的で開発されたものです。

しかしこのようなSSTなるツール、今すぐすべてを買い揃えないといけないという性格のものではありません。メンテナンスの上達やどこまで作業を行うかによっても変わってくるため、やはり必要に応じてその都度充実させていけばよいものと言えるでしょう。またSSTには大きく分けて2種類あり、限られたメーカーや車種にしか使うことの出来ない狭い意味での特殊工具と、汎用性のある広い意味のものがあります。
前者には各種プーラー類やオイルフィルターレンチなど、後者にはネジ山修正機やショックドライバー(インパクトドライバー)やトルクレンチといったものがあります。特殊工具と呼ばれているツールが故に価格的にも高額で、プロのメカニックだけに限られるものと思われがちですが、量販店やDIY店でもよく見かけることができるお手軽なSSTも数多くあります。

スナップリングプライヤーは、C型形状をした止め金具のスナップリングを脱着するツールです。エンジンのピストンや各種ベアリングの抜け止めとして、またハンドツールの中にもスタッドプーラーや一部のラチェットハンドルのストッパーとして使用されているなど結構よく見かけることが出来ます。これらを脱着するにはラジオペンチや細いマイナスドライバーでも何とか代用することもできますが、さすが“そのための専用ツール”だけあって、その作業性のよさは比べようもありません。

通常スナップリングプライヤーには大きく分けて軸用(EXTERNAL)と穴用(INTERNAL)の2種類があります。

●軸用(EXTERNAL)
スナップリングが軸の回り(軸上)に付いているものに用いるもので、スナップリングプライヤ−のグリップを握ると先端が開いて脱着するものです。
●穴用(INTERNAL)
スナップリングが穴の中に入っている場合のもので、グリップを握ると先端が縮まり外れるものです。

またスナップリングプライヤーには、上記のような軸用・穴用(開け、閉め)に加えてC型スナップリングの両端部分の穴径に合わせて先端部のサイズが色々と異なっています。この先端部のことをクローやチップと呼ぶのですが、その直径は1.0、1.2、1.3、1.5、1.8、2.0ミリなどの様々なサイズがあります。スナップリングをスピーディーにかつ確実に脱着させるためには、グリップ中央部のスプリングバネと握った時の安定感に加えて、この先端部のクローがきっちりと作られていることがこのツールの鍵と言うことができます。強靱な材質はもとより、その形状にバックテーパー加工(逆テーパー)を施しているものが、スナップリングの穴からクロ−が外れにくく確実に作業するのに有利なことは間違いありません。

ところでスナップリングプライヤーなるもの、軸用・穴用に加えて色々なサイズのものをすべて買い揃えるのは種類も多く金銭的にも大変なことです。そこで軸穴兼用(開け閉め両用)に加えて、先端クローを付け替えるタイプは、色々な大きさのものにも対応することができ、また先端部が磨耗しても交換可能できるというメリットもあります。軸穴兼用タイプにも色々あって、鉄板を打ち抜いて作った軸穴専用のプレ−トをセンターピンで簡単に止めているものなどは、ハッキリ言って使い勝手はよくありません。しかし各メーカーによっては工夫をこらしたおもしろい商品もあります。それでは具体的に2つほど紹介します。 

●新潟県のマルト長谷川工作所(KEIBA製品)
世界7カ国に特許を持ったその独特な形状は、従来の常識を打ち破ったもので昭和57年の通産省選定のグッドデザイン商品ともなっています。
軸用の直・曲、穴用の直・曲の四通りに使い分けをすることができます。
●アメリカのチャネルロック(CHANNELLOCK)※
グリップにライトブルーのビニールコーティングを施していることで有名な総合プライヤーメ−カ−。先端クローは付け替えタイプで五種類が標準装備されており、色でサイズを判別できるようになっています。また軸用、穴用の切り替えもスライダ−を操作することによってワンタッチで簡単に切り替えることが出来ます。(特許)

 

 


 

具体的な使用方法は、以下の通りです。
※右画像を参考にしてください。

まずハンドルを握るとロックが解除されます。
★軸用に使用する場合
ジョイント中央部の銀色のスライダーを揃えて、EXTと表示のある側からスライダーをしっかりと押し込んで下さい。ハンドルを握ると先端が
開くようになります。

★ 穴用に使用する場合
上記と同様に銀色のスライダーを揃えて、INTと表示のある側からスライダ−をしっかりと押し込んで下さい。ハンドルを握ると先端が閉じるようになります。

通常のメンテナンスにはSSTと呼ばれる特殊工具は、あまり頻繁に活躍するものでもありません。今回紹介したスナップリングプライヤーにおいても例外ではなく使用頻度から言えば、そう出番は多くないかも知れませんが、めったに使うことのないツールだからこそ、長く使うことができて、またトータルで見ると価格的にもリーズナブルな軸穴兼用タイプもお勧めできます。熟練したメカニックのコツのいる作業を簡単に行ってしまうSSTツール。“ある”と“なし”では作業の正確性とスピードは、かなり異ってくるのも当然です。あると便利なスペシャルツール、お手軽SSTのスナップリングプライヤーをぜひお試し下さい。